SDS011は花粉センサになるか

はじめに

安価なPM2.5/PM10センサである Nova Fitness Co. Ltd (山东诺方电子科技有限公司) の SDS011 [1] が花粉センサとして使えないか1週間(2019年2月26日0時から3月4日24時まで)、自宅の屋外に置いて記録をとって調べてみました。結論を先に書くと花粉センサとしては使えないことが分かりました。

SDS011 の測定方式

SDS011は気体中の微粒子にレーザー光をあて、その散乱光で微粒子の量(ここでは質量)を間接的に測るセンサです。SDS011は空気中のPM2.5とPM10の質量[μg/m^3]を出力します。測定範囲は 0.0-999.9μg/m3 です。散乱光方式に偏光板を組み合わせた方式の花粉センサ PS2 が市販されています[2]。この PS2 は東京農工大学の研究グループと共同開発したようです[3]。同じ散乱光を使ったセンサなので、花粉以外を含んで測ってしまうとしても SDS011 でも目安ぐらいにはならないか期待が出ます。

SDS011 の測定性能

まず SDS011 の測っている微粒子の大きさについて文献がないか探してみたところ[4]が見つかりました。その論文では粒径の分かったものを混合した気体をつくり、それをSDS011とリファレンスのセンサで測って比較をしています。それによると PM2.5 のセンサ出力(単位は[μg/m^3])は粒径 0.3μm, 0.5μm, 1μm ではリファレンスの値に近く比較的良好なものの、粒径 2μmではリファレンスにつかったセンサよりも大幅に数値が小さくなっています。また PM10 のセンサ出力(単位は同じ[μg/m^3])は粒径 0.3μm, 0.5μm, 2μm については良好なものの, 1μmについてはリファレンスよりも多く、5μm, 10μmについては数値が小さくなっています。また、PM10出力は湿度が高く、霧のような状態では数値が大きくなることがあるとあります。SDS011の動作範囲は相対湿度 75% 以下となっています。

ところで、2月後半から3月前半にかけて飛散するのは杉花粉です。杉花粉の粒径は30μm程度と言われています。したがって、SDS011では杉花粉は検出しにくい可能性があります。

花粉の飛散量

花粉の飛散量については Yahoo 天気予報[5]の予報値(市町村単位で1日ごとに出る)と環境省の花粉観測システム(はなこさん)[6]の測定値を使うことにしました。また大気中の汚染物質の測定値として、環境省大気汚染物質広域監視システム(そらまめくん)[7]の値を使うことにしました。

測定方法

SDS011 を Linux を載せた PC に USB シリアルで繋ぎ、1分ごとに測定し記録しました。SDS011 は集合住宅の1階のベランダに置いたエアコンの室外機の上に載せました。エアコンは通常の生活通り使いました。また室外機は午後に日光があたります。測定期間は2019年2月26日0時から2019年3月4日24時までです。

測定結果

Yahoo 天気予報の花粉飛散予報値(設置場所の市町村の予報値)と SDS011 のPM10, PM2.5 出力の比較を表1に示します。PM10, PM2.5 の値は各1日の測定の平均値です。予報値と PM10, PM2.5 の間の関係は少ないように見えます。つぎにSDS011による測定値(PM10)とはなこさんによる花粉量の測定値(大阪合同庁舎第2号館別館での測定)の比較を図1に示します。PM10と花粉量の相関係数は -0.21 でした。

表1 Yahoo 天気予報の花粉飛散予報値と SDS011 のPM10, PM2.5 出力(1日の平均)の比較
日付予報値※PM10[μg/m^3]PM2.5[μg/m^3]
2019/2/26多い8.2411.2
2019/2/27 非常に多い 8.43 10.6
2019/2/28 少ない 18.7 20.9
2019/3/1 多い 17.2 20.8
2019/3/2 非常に多い 22.5 26.2
2019/3/3 非常に多い 21.5 24.0
2019/3/4 少ない 21.9 24.8
※予報値:少ない (〜10個/cm^2), やや多い (10個/cm^2〜), 多い(30個/cm^2〜), 非常に多い(50個/cm^2〜)

図1 SDS011による測定値(PM10)とはなこさんによる測定値(大阪合同庁舎第2号館別館での測定)の比較

図1の比較をした理由は次の通りです。 はなこさんの測定値は、設置場所に近い2カ所、大阪合同庁舎第2号館別館(大阪と表記)と奈良県産業振興総合センター(奈良と表記)の花粉の測定値を比較したところ(図2)、Yahoo天気予報の値とより似ていることから大阪の測定値を使うことにしました。大阪と奈良の花粉の測定値の相関係数は 0.69 です。また SDS011の PM2.5とPM10の出力は非常によく似ていました(図3, 相関係数 0.99)。これについては設置場所ではPM2.5とPM10の量が比例していた可能性があります。


図2 大阪合同庁舎第2号館別館と奈良県産業振興総合センターの花粉の個数の時間変化

図3 SDS011によるPM2.5とPM10の測定値の時間変化

つぎに設置場所と同じ市内にある、そらまめくんの測定値とSDS011の測定値(PM10のみ)を比較して見ます(図4)。設置場所は車のあまり通らない集合住宅の中にあり、そらまめくんは車通りの比較的多い道路に近いものの、比較的よく似た傾向を示しています。しかし、ときどき大きく測定値が外れているように見えます。これについて相対湿度を重ねてみます(図5)。これをみると相対湿度(右軸)が70%を超えるとSDS011のPM10の値が大きい側に離れていくことが分かります。したがって PM2.5, PM10 センサとして使う場合にも湿度に注意することが必要と分かります。


図4 SDS011のPM10の値とそらまめくんによる浮遊粒子状物質(そ SDS)と微小粒子状物質(そ PM2.5) の測定値の時間変化

図5 SDS011のPM10の値とそらまめくんによる浮遊粒子状物質(そ SDS)と微小粒子状物質(そ PM2.5) の測定値の時間変化にSDS011設置環境の相対湿度(右軸)を追加したグラフ

まとめ

SDS011は花粉センサとしては使うのが難しいことが分かりました。またPM2.5, PM10の値の相関が高いことが分かりました。これについては設置場所の影響かもしれません。一方で PM2.5, PM10センサとして使う場合にも湿度に注意が必要であることが分かりました。

P.S.

  1. 厳密な値を求めたい場合(そういった目的の測定装置の場合)には測定空気を乾燥させているようです。
  2. 花粉センサの中には土埃を測らないように先にトラップを仕掛けるような機構を持つ場合もあるようです。
  3. PS2と同じセンサがウェザーニュースのポールのロボ[8]に使われているようです。センサだけでも売ってくれるとうれしいんですけどね。
  4. シャープの埃センサだと0.05μm以上の粒径だと検出可能とありましたが、花粉の大きさの粒子にも反応するんでしょうか。粒径によって強く散乱する方向が違うようなのでフォトダイオードが1カ所のみの形式だと、杉花粉サイズの検出は苦手な可能性もあるのですが。

参考文献


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