高校での化学の実験用に簡易比色計[1]を試作しているのだが、CdSの抵抗値が安定しないという話を聞いて調べてみました。結果として「光の照射を開始してからの光電流の立ち上がりは一般に減衰よりおそく、かつ前歴の影響を受けやすい」[2]「低光強度で前歴に依存する」[3]が問題となったようでした。前歴依存性というのは過去に CdS にあたっていた光の強さによって、同じ光の強さでも抵抗値が異なるということです。意外と知られていない気がする(調べるまで知らなかった)ので書いておきます。
簡易比色計というのは、濃度によって光の透過率が変化する溶液の濃度を求めるためのものです。光源(現在はLEDが多い)と明るさセンサ(CdSやフォトトランジスタ)から構成され、セルと呼ばれる容器に溶液を入れ、光源と明るさセンサの間において測定します。あらかじめ明るさ(センサの値)と濃度の関係を調べておけば、簡便に溶液の濃度を知ることができ、屋外での使用例もみられます。
CdSの抵抗値が安定しないというのは次の2点でした。
電源は単3形乾電池4本で光源のLEDには電流制限抵抗 330Ωを接続、2)の問題があるので電源は最初から入れっぱなしということでした。
再現実験をしてみると確かにその通りで、LEDとCdS (GL5549) を空き缶の中にいれて遮光し照明を消して夜間にArduinoで自動で測っても CdS の値が変動していました。
次に昼間に測定してみました。スチール製の机の上に回路を置いてお菓子の空き缶で蓋をして外光を遮り、外から電源を入り切りできるようにしました。電源には新品のアルカリ単三形乾電池4本を使いました。電源を入れた時を0秒とし、ストップウォッチと電池の電圧、LEDの電流、CdSの抵抗値をビデオで撮影しあとから数値を読み取ったものです。10分間(600秒)電源を入れ、10分切って、再度10分電源を入れてました。
まず電池の電圧は次の図のようになりました。最初の10分で -0.6% ほど低下しています。
LEDに流れる電流は次の図のようになりました。50秒ほどの間電流が増加し、以降は安定する様子がわかります。おそらく、LEDの接合部の温度が電源をいれると上昇し、それにともなって流れる電流が増えているのではないかと思います。一方で50秒から600秒での変化は0.36%程度です。
CdSの抵抗値は次の図のように変化しました。50秒から600秒で 1.3%程度変化しています。LEDの電流の4倍ほど変化しています。
上の図は1600秒までしか載せませんでした。実は 1600秒の時点で蓋をしていた缶を外し、すぐにしめたところ、抵抗値が大きく変化してしまいました。1800秒まで見ると次の図のようになります。
すぐに蓋を閉めたのにCdSの抵抗値が大きく変化しています。これは前歴依存性の影響が考えられます。
CdSの前歴依存性について知ったので、フォトトランジスタ(新日本無線の NJL2502L)に変えて同じ実験をしてみました。そうすると電源を入れた直後からフォトトランジスタに流れる電流(抵抗1本で電圧に変換してテスターで測定)は、安定していました。また蓋をしている缶を開け閉めしても、閉める前の値にすぐに戻り CdS のように蓋の開閉で値が大きく変わるようなことはありませんでした。電源のON/OFFでも安定していました。このあたりで面倒になった^^;のでグラフはなしです。
ということで CdS の前歴依存性によって問題が起きていたようでした。今はフォトトランジスタも安いので、簡易比色計のような用途だと CdS ではなく、フォトトランジスタ(もしくは明るさセンサ IC)を使うのがよさそうです。
[1] 長谷川 浩, 高橋 真, 牧 輝弥, 上田 一正, 自作できる簡易比色計の感度及び精度向上に関する工夫, 化学と教育, 2005, 53 巻, 8 号, p. 458-461, 公開日 2017/07/11, Online ISSN 2424-1830, Print ISSN 0386-2151, https://doi.org/10.20665/kakyoshi.53.8_458, https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/53/8/53_KJ00007744409/_article/-char/ja
[2] 東 健彦, 菅野 富夫, 広田 泰輔, "硫化カドミウム光導電セルの応用(1)", 日立評論, 1962年7月号, pp.38--43, 1962. https://www.hitachihyoron.com/jp/archive/1960s/1962/07.html
[3] 鈴木 義彦, "<解説>センサ技術(II)", 近畿アルミニウム表面処理研究会会誌, no.150, pp.1--12, 1991年7月. https://kindai.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=1527&item_no=1&page_id=13&block_id=21